電磁パルスとは?


電磁パルスとは?HEMPなど電磁パルスによる被害の仕組み・原理と対策 | 地球の未来を宇宙から考えるメディア Beyond Our Planet (rd.ntt)より

電磁パルスとは?

電磁パルス(EMP)とは、規模な太陽フレアや電磁パルス爆弾・上空30km~400kmの高高度での核爆発による発生する強力なパルス状の電磁波。
この電磁パルスによってあらゆる電子機器が破壊され、現代社会のあらゆる生活インフラが破壊される脅威がある。

この電磁パルスを意図的に攻撃的に使用されたとき、いったい何が起こるのであろうか?

この仕組みや原理、想定される被害、対策について解説していく。

1.電磁パルスとは

電磁パルス(EMP: ElectroMagnetic Pulse)とは、強力なパルス状の電磁波。
大規模な太陽フレア、上空30km~400kmの高高度での核爆発、高強度電磁界発生器などにより人為的に発生させることができる。
ほとんど人体に直接の影響はないといわれているが、電子機器が損傷・破壊されることによって、電子機器を使用した通信や電力、ガス、上下水道、交通などのインフラに障害が生じる。
実際に、1859年に発生した大規模な太陽フレアによってカナダのケベック州全体で9時間もの停電が起きたことがある。

中国・ロシア・北朝鮮によるHPEM(※後述)やHEMP(※後述)攻撃が現実的な脅威となっている。

北朝鮮によるミサイル開発・人工衛星打ち上げ・核開発の目的はこれである。

現状ではほとんどの電子機器が、太陽フレアによる磁気嵐被害やHPEM発生器、HEMPによる攻撃を想定せずに作られている。
専門家によれば、もしこれらの被害や攻撃を受けた場合は壊滅的な打撃を受け、復旧までに数か月~数年かかるともいわれている。

だが、インフラの機器も、その機器を復旧させる機器も、復旧させる機器を修理・製作する機器もすべて電子機器を使用していると考えれば、完全に現状に復旧するには相当な時間がかかるだろう。

2.EMPの種類と特性

EMPの種類と特性を、太陽フレア、HEMP、HPEMのそれぞれについて見ていく。

2-1. 太陽フレア

太陽フレアとは太陽表面の大爆発である。
大きな黒点の周りで発生し、莫大な量の電波やX線、および電子や陽子などの電荷を帯びた素粒子が飛び出す。
太陽フレアによって引き起こされる電磁パルスは低周波数帯のもので、短いときは数分間、長いものでは数時間にわたって続く。
この電磁パルスによって地球の磁場の振動や動揺が引き起こされ、高圧送電線などの非常に長い伝導体に大電流が発生します。

太陽フレアで発生した電磁パルスが地球の磁場の振動を引き起こして地震が発生するのではないかと考えられる。

もちろん、太陽フレアが発生したからと言って必ずしも地震が起こるとは限らないが、太陽フレアの発生と地震が全くの無関係であるとも思えない。

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」、実はこの日の早朝にも太陽フレアが発生しているのである。
X5.0の大規模太陽フレア発生 6年ぶりの大規模 [1/4更新] | 八雲エンライトメント (en-light.net

2-2. HEMP

「高高度核爆発電磁パルス」(HEMP: High altitude ElectroMagnetic Pulse)

HEMPには
  1. 初期HEMP(E1)
  2. 中間期HEMP(E2)
  3. 終期HEMP(E3)
の3種類の電磁パルスがある。

1. E1

E1はHEMPの最初に発生する強力なパルス状の電磁波。
核爆発によって放出されたガンマ線が大気中の窒素や酸素などの分子に衝突すると、そのエネルギーにより分子中の電子がはじき出される。
はじき出された無数の電子により、数ナノ秒で数万ボルト毎メートルに達する強力なEMPが発生し、地上に到達する。
周波数はMHz以上の高周波数帯となり、爆発地点から見通せる範囲の電気器具や電子機器、あるいはそれらを使用したシステムに電磁波として直接侵入するほか、電話線や電線経由でも侵入する。

2. E2

E2は核爆発のガンマ線によって発生する。
E1の次に地上に到達し、kHz~MHzの中周波数帯の電磁パルスが数ミリ秒間(1,000分の数秒)継続する。
電話線や電線経由で電子機器に入り込み、E1が破壊した箇所を中心にさらなる損傷や破壊を引き起こす。

3. E3

E3は核爆発で発生する火球によって引き起こされる。
太陽フレアと同程度の低周波数帯(kHz以下)の電磁パルスで、やはり高圧送電線などに大電流を発生させる。

2-3. HPEM

「高強度電磁界」(HPEM: High-Power Electro-Magnetics)

HPEM発生器はバッテリーの電力や化学反応、爆発などにより、高周波数帯(MHz以上)のEMPを発生させる。
HEMPのように数千kmの範囲ではなく、数十m~数百mの近距離での電子機器の破壊や機能停止を目的とした装置である。

3.EMPの影響

EMPは実際にどのような影響をおよぼすのか?
EMPにより機器が破壊されるメカニズム、および発生する社会的被害を見てみる。

3-1. EMPにより機器が破壊されるメカニズム

高周波数帯、中周波数帯、低周波数帯のEMPが機器を破壊するメカニズムはそれぞれ次のとおり。

1. 高周波数帯

高周波数帯のEMPは、数十センチ程度の短いケーブルにも侵入し、高電圧を発生させることが特徴。
発生した高電圧は電子デバイスや部品などを耐性許容限度以上の電圧がかかる「過電圧状態」にし、絶縁破壊・短絡(ショート)させて故障させる。

2. 中周波数帯

中周波数帯のEMPは、電線や電話線など数十メートル以上のケーブルに侵入して高電圧を発生させる。
それにより、これらケーブルに接続された電子機器を過電圧状態にし、絶縁破壊・短絡(ショート)させて故障させる。
E2の場合にはE1に続いて地上に到達するため、E1で破壊されなかった電子機器も破壊されることになり、電子機器を使用したインフラなどのシステムはさらなる回復不能状態に陥る。

3. 低周波数帯

低周波数帯のEMPは、長大な送電線など数十メートル以上のケーブルに高電圧や大電流を発生させる。
電流の大きさは送電線の長さに比例するため、非常に長い送電線では1,000アンペア以上にもなるといわれている。
この大電圧や大電流は変電設備などの故障を引き起こすため、広域での停電が発生する可能性がある。

3-2. EMPにより発生する社会的被害

HEMP、HPEM発生器および太陽フレアにより発生する被害はそれぞれ以下のとおり。

1. HEMPによる被害

HEMPによる被害は、以下のように甚大なものが想定されている。
(1)被害の範囲
HEMPの被害を受ける地表の範囲は、下表のように、爆発の高度が高くなるほど広くなる。
爆発高度 被害範囲(半径)
30km 602km
100km 1,100km
200km 1,556km
300km 1,905km
400km 2,200km
(参考:CISTEC Journal 『高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の脅威 ―喫緊の課題として対応が必要―』HEMPによる被害状況より)

上の表によれば、北端から南端までの直線距離が約1,200kmとなる日本の本州は、爆心高度100kmで被害範囲としてほぼ覆われてしまうことがわかる。
(2)想定される被害状況
米国議会EMP議員団(Congressional EMP Caucus)によれば、10ktの核爆弾がニューヨーク真北上空135kmで爆発した際に発生するHEMPの被害状況は、下表のとおりとされている。
項目 被害規模
死傷者※ 数百万人(復旧長期化の結果として)
インフラ被害 米国東部の全域
停電地帯からの避難民数 数百万人
汚染状況 米国東部全体、おそらく64平方km以上にわたって数州に散在する原子炉、工場、製油所、パイプライン、燃料貯蓄所、その他工業施設の、火災や爆発などによる放射能と化学物質の脅威
経済的な影響 数兆米ドル
復旧予定期間 数年
※ HEMPは人体には直接の影響を与えないとされているが、死傷者数や経済的影響は、復旧長期化の影響(食糧不足や病気、インフラ再建のための費用など)によるもの。
(図表出典:CISTEC Journal『高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の脅威 ―喫緊の課題として対応が必要― HEMPによる被害状況』)
(3)想定される事態
HEMPによる攻撃を受けた場合、次のような事態が発生するといわれている。
まず、発電所や送電システムなどの電力供給インフラが損傷・破壊される。
使用されている電子機器の電子素子や部品、あるいは変圧器などは、高電圧がかかることで物理的に壊れる。
また、情報・通信システム、鉄道・航空・船舶・バスなどの運輸・輸送システム、金融・銀行システム、医療システム、上下水道システム、建造物・施設の維持管理システム(電気、上下水道、エレベーターなど)など、電力を使用するその他のインフラも損傷・破壊される。
すなわち、以下のシステムも使用不能になると予想されている。
  • 政府・各省庁・自治体などの管理業務用システム
  • 企業の各種業務処理用システム
  • 自衛隊の指揮・統制・運用システム
  • 警察などの犯罪捜査システム
  • 出入国管理システム
国や自治体、企業など、すべての活動が麻痺し、大混乱に陥る可能性がある。
さらには、原子力発電所が送電線からの外部電源を利用し、内部の非常用電源や発電機などを利用できない場合には、福島原発事故のような事態に陥る可能性がある。

2. HPEM発生器による被害

これまで、高出力な電磁パルスを発生する種々の試験装置が開発されてきた。
また、試験装置に限らず、レーダなども高出力な電磁パルスを発生させることがある。
レーダによる被害の事例として、サンディエゴ水道事業で使用されている自動制御システムが、船舶レーダの影響で誤作動し、断水故障が発生したことがある。

3. 太陽フレアによる被害

記録に残るなかで最大の太陽フレアは1859年に発生したものだといわれている。
その際には欧米で、電信機などの火花放電による火災が多発した。
当時と比べてさらに大幅に電気に頼っている現在で同じ規模の太陽フレアが発生すると、1兆~2兆ドルの損害が発生し、復旧に4~10年ほどかかるとの試算もある。
また、前述した1989年に発生した太陽フレアでは、カナダ・ケベック州で発生した9時間にもおよぶ大停電の影響を600万人が被った。
経済的損失は100億円超と見られている。
2003年の10月~11月にかけても太陽フレアによる大規模な磁気嵐が発生し、日本の科学衛星を含む宇宙機の約59%が影響を受け、約24%のミッションが安全策を取ったこともある。

4.EMPへの技術面での対策

EMPへの対策は、技術的な取組みが進んでいる。
ここでは、そのなかから通信装置のHEMP対策、および太陽フレアやHEMPの影響を考慮した次世代エネルギー供給技術を見てみる。

4-1. 通信装置のHEMP対策

HEMPに対する技術的な取組みは、1990年代から国際電気標準会議(IEC)や国際電気通信連合(ITU)などの国際機関や組織が中心となって進められており、IEC、ITUのそれぞれが電子機器や通信装置のHEMP対策に関する標準・規格をまとめている。
2009年には、通信センタやデータセンタの機器をHEMPから防護する指針として、ITU-T勧告K.78「HEMPに対する通信装置の耐力要件」が制定された。
この規格では、高度数十kmで核爆発が起きた場合を想定し、通信装置に対するHEMPの7種類の侵入形態ごとに、通信装置に要求される耐力が規定されている。
ただし、装置に要求される耐力は、装置が実際に設置される環境(建物の構造や雷害対策の有無など)によっても変わってくる。
そのため、標準工法や過去の電磁波測定結果などを参考に、装置設置環境の耐力評価が行われている。
また、装置の耐力を測定するにあたっては、HEMPを模した電磁パルスの装置への印加が必要。
強力な模擬電磁パルスをどのように発生させるか、あるいはどのように装置に印加するかが研究課題となっている。

4-2. 次世代エネルギー供給技術

太陽フレアによる宇宙線やHEMPによる電磁パルスの影響により想定される、電子機器や電力供給機器の破損や停止、誤作動などのリスクに備えるため、さまざまな事象の影響があっても電力供給が途絶えない、次世代エネルギー供給システムの研究が進んでいる。
次世代エネルギー供給システムでは、直流380Vの高電圧直流給電システムが導入された地域の拠点となり得るビルと、周辺地域の複数の発電装置や、定置・車載の蓄電池、および電力の需要家とを直流の電力網で結ぶ。
直流給電システムは交流給電システムと比較して、直流で動作するITC機器などに変換なしで電力を供給でき、またバックアップ用の蓄電池も直流のメイン配線に直結するため、変換ロスの少ない高効率なシステムといえる。
太陽フレアやHEMPの影響を受けた際には、交流給電システムの場合には、交流システムに必要な同期制御を行うソフトウェアがエラーを起こし、同期が外れて電力供給が途絶えるリスクがある。
それに対して直流システムでは、同期制御の必要がないこと、および直流メイン配線に蓄電池が直結していることにより、電力供給の途絶リスクが低減する。
この、直流システムであることが、次世代エネルギー供給技術が太陽フレアやHEMPなどに強い理由といえる。
直流電力網は、災害時に電力会社からの電力供給が途絶えても、周辺地域の再生可能エネルギーや蓄電池を組み合わせることにより、電力の融通が可能。
また、通常時に周辺地域の再生可能エネルギーが余剰となれば、拠点ビルの蓄電池に効率よく蓄えることも可能となる。

5.まとめ

  • 電磁パルス(EMP)は電子機器を損傷・破壊し、電子機器を使用した通信や電力、ガス、上下水道、交通などのインフラに障害を生じさせる。
  • EMPは太陽フレアや高強度電磁界(HPEM)発生器、高高度核爆発などにより発生する。
  • EMPには高周波数帯(MHz以上)、中周波数帯(kHz~MHz)、低周波数帯(kHz以下)と大きく3種類ある。
  • 高周波数帯のEMPは数十センチ程度の短いケーブルから、中周波数帯のEMPは電線や電話線などから侵入し、電子機器を過電圧状態にして故障させる。
  • 低周波数帯のEMPは送電線に大電流を発生させ、変電設備を故障させることにより広域での停電を引き起こす可能性がある。
  • EMPの発生により大きな社会的被害が発生する可能性がある。
  • 通信装置のHEMP対策や次世代エネルギー供給システムなど、大規模なEMPに対する技術的な対策も進められている。

参考文献

日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。
https://www.rd.ntt/se/media/article/0036.html
update 2024.1.6
since 2024.1.6

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