CSISによる「中国の台湾侵攻」シミュレーションの落とし穴

戦略国際問題研究所のシミュレーション。

2023年1月9日、米国の戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies=CSIS)は、「中国が2026年に台湾を武力攻撃した際のウォーゲーム(机上演習)の結果(以下、シミュレーション)」を公表した。
これによると、「中国が台湾を武力攻撃したら中国が負ける」という結果になった。

何とも頼もしい結果であろうか。

「台湾有事は日本の有事」である。

その台湾がアメリカによって守られれば、日本も守られるということである。

シミュレーションの大綱

シミュレーションの全文はこちら「リポート」から見ることができる。
165ページに及ぶ英文長文なので詳細は省くが、要するに

●CSISは、中国の水陸両用台湾侵攻のためのウォーゲームを開発し、24回実行しました。
●ほとんどのシナリオで、米国/台湾/日本は中国による従来の水陸両用侵攻を打ち負かし、台湾の自治を維持しました。

日米台連合軍によって中国による台湾侵攻を阻止することができた・・・・・・と。

●しかし、この防御には高コストがかかりました。
●米国とその同盟国は、数十隻の船、数百機の航空機、および数万人の軍人を失いました。
●台湾は経済が荒廃したのを見ました。

中国による台湾侵攻を阻止することができたが、それによって日本・アメリカ・台湾は甚大な被害が発生した・・・・・・と。

●さらに、高い損失は長年にわたって米国の世界的な地位を傷つけました。
●中国も大敗し、台湾の占領に失敗すると中国共産党の支配が不安定になる可能性がある。
●したがって、勝利だけでは十分ではありません。
●米国は直ちに抑止力を強化する必要がある。

世界に対するアメリカの権威は失墜し、また中国国内は大混乱する。
中国の混乱がさらなる悲劇をもたらすであろう。
だから今のうちにさらなる軍備増強していく必要がある・・・・・・と。
次の戦争の最初の戦い:ウォーゲーミング 中国の台湾侵攻 (csis.org)

つまり・・・・・・
中国による台湾侵攻を阻止するために、日本および台湾はさらなる軍備増強し、アメリカの軍備増強にも協力せよ・・・・・・
といいたいのであろう。

シミュレーションの結果を踏まえて・・・・・・

たしかに現時点では抑止力として軍備増強に力を入れるべきであろう。
その結果、政府は2022年12月16日の臨時閣議で、
●外交・安全保障の最上位の指針である「国家安全保障戦略」
●防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」
●防衛費の総額や装備品の整備規模を定めた「防衛力整備計画」
の3つの文書、いわゆる「安全保障三文書」を決定した。

【詳しく】日本の安全保障の大転換 “安全保障3文書”閣議決定 | NHK | 自衛隊


この「安全保障三文書」の閣議決定は、岸田首相の主導によって成立したといわれているが、そうではない。

シミュレーションの結果をアメリカに押し付けられて成立したに過ぎない。

バカ息子を首相補佐官に任命するような、厚顔不遜な木原誠二を官房副長官に任命するような、国家の安危を憂える心を持たない岸田首相が自ら進んで国防のことなど本気で考えるわけがない。

おそらく、アメリカによる圧力と、日本会議および神道政治連盟による誘導があったものと思われる。

ここで・・・
シミュレーションの発表が2023年1月9日、安全保障三文書の閣議決定が2022年12月16日。
「シミュレーションの結果に基づいて安全保障三文書が閣議決定された」というのは時系列的に矛盾しているという指摘もあろう。

だがこの指摘は当たらない。

なぜなら、前もって日米合同委員会の席でこのシミュレーションの内容がアメリカから日本に伝えられていたからである。
中国の反応

このシミュレーションに対して、中国共産党中央委員会の官営機関紙『人民日報』傘下のタブロイドである環球時報は1月12日、次のように述べている。

――このたび米国戦略国際問題研究所は、米国の軍事的圧力(シミュレーション)の結果を発表した。
2026年の人民解放軍による台湾への攻撃は「失敗に終わる」と想定しているが、そのためには
●台湾軍は発生源を攻撃する能力を持っている
●米国は直ちに介入しなければならない
●米軍が多数の対艦ミサイルの配備を完了している
●日本のすべての基地を使用できる
という4つの前提条件を満たしていなければならない・・・・・・と。
しかし、これらの前提をすべて満たすことは困難だ・・・・・・と。

つまり、中国が台湾侵攻する時にはすでにアメリカを中心として日本も台湾も臨戦態勢が完全に整っている状況であることが大前提のシミュレーション内容である・・・・・と。

そして「このシミュレーションは、中国を敵視させてアメリカの武器・弾薬を日本および台湾に大量に購入させて、アメリカが大儲けするための内容だ」と言っているのである。

中国がこのシミュレーションの裏にあるアメリカの本音を見抜いているのか、それともアメリカはさらにその裏があるのか。

それはわからない。

まさに「情報戦」である。
台湾の反応

このシミュレーションについて、日本ではほとんど知られていない。
しかし台湾ではこのシミュレーションに関する多くの番組が特集を組んでいるようである。

1月11日に報道された番組で、コメンテーターは以下のようなことを語っている。

1.シミュレーションは24回行っており、そのうち19回は「米日台」側が負けているのに、なぜか平均して「米日台」側が勝ったことになっている。

2.私の2人の友達がウォーゲームに参加したが、彼らがこれは「結論ありきのシミュレーションで、その結論に誘導するようにしている」と言った。それが嫌になってチームから抜けた。

3.そもそもシミュレーションの前提条件が間違っている。
第一の前提条件は日米の軍隊が戦争勃発後すぐ介入するように設定しているが、日米ともに参戦するには国会・米議会の承認が必要で、即時参戦は不可能だ。

4.さらに、日米介入の理由を作る目的で、中国が台湾攻撃のために先ず沖縄やグアムの米軍基地へ先制攻撃をするように設定しているが、中国は日米参戦の口実を与えないことを大前提に動くので、この前提条件も現実的でない。

5.そもそも中国が軍事攻撃をする場合、実際に発生する可能性が最も高いのは、中国人民解放軍による台湾封鎖だ。
それなのにシミュレーションは、この実現可能性が最も高い「台湾封鎖」を想定していないので、非現実的だ。

6.第二の前提条件として、アメリカが十分のLRASM(長距離対艦ミサイル)を配備することを想定している。
しかしアメリカのLRASMは主として航空機から発射するもので、もし中国が沖縄やグアム島の米軍基地を先制攻撃して大量の航空機を破壊しているのだとしたら、発射できないことにつながるので、前提条件が矛盾していて、強引だ。

7.シミュレーションでは中国が米軍空母2隻を破壊する結果になっているが、空母1隻に5000人の乗員がいるので、米軍の総死亡者が、たったの3200人という結果と矛盾している。

8.第三の前提条件は、台湾軍が解放軍の上陸作戦を阻止することができるとなっている。
その際、なぜ台湾兵士は3500人しか死亡(シミュレーションでは犠牲)していないのか?
解放軍が上陸作戦して、橋頭堡を確保することができず、そのまま戦争が終わるとなっているが、そのようなことはあり得ない。

9.解放軍は東部戦区のみ参戦し、米日台連軍と戦闘して、1万人の死者を出して戦争はそのまま終わるとなっているが、中国のことを何も理解していない。
朝鮮戦争では諸説あるものの20万人が戦死している。
1万人の死亡など、始まりに過ぎない。

10.アメリカがLRASMで東部戦区の138隻の揚陸艦や駆逐艦を全部撃沈したので、上陸した解放軍に補給できず解放軍は敗戦したとある。
中国の命運をかける戦争に、東部戦区だけが参戦して、北部戦区と南部戦区が支援しないということなどあり得ない。
北部戦区や南部戦区を外したのはなぜか?

11.このシミュレーションは第1回の攻撃しか想定していないが、台湾の漢光シミュレーションでは、中国の軍隊が少なくも9回の攻撃をしてくると想定している。

12.なぜロシアや北朝鮮の介入を全く考えないのか?

13.中国の解放軍が台湾を包囲封鎖したら、12日間経過後には(エネルギーのほとんどを輸入している)台湾は停電しはじめる。
となると、世界経済に大きなダメージを与えることになる、関係国は中国と交渉したいと言い出すだろう。
そもそも海上封鎖は日米軍事に介入の口実を与えない。

豊富な知識と多角的視点で深く分析し、アメリカによる見えざる圧力にも屈しないような力強い意見である。

日本で日本人がこのような意見を言えば、あらゆる方面から袋叩きにされるであろう。

この動画のコメント欄を見ると、このコメンテーターに同調する意見が多いようである。

つまり、このCSISが発表したシミュレーションは現実的ではない・・・・・・と。
「中国が2026年に台湾を武力攻撃した際のウォーゲーム(机上演習)の結果(シミュレーション)」を公表した意味。

明日の太陽が必ず東から昇るように、中国による台湾侵攻は必ず起こる。

ではなぜこの時期に手の内を明かすようなこのシミュレーションを公表したのか?

これには2つの大きな意味がある。

1・中国が指摘するように「このシミュレーションは、中国を敵視させてアメリカの武器・弾薬を日本および台湾に大量に購入させて、アメリカが大儲けするため」。

この指摘は至極まっとうであろう。

だが、アメリカが大儲けしようがしまいが、中国による侵攻が防げるのならば、日本にとっても台湾にとってもそれは多大なる利益となるのは間違いない。

2・手の内を明かすことで中国の選択肢を絞らせる。

まさに情報戦である。

たとえば、相手に選択肢が5つあるとして、そのうちの3つに対して「こうしたらこうするよ」と明かしておけば、相手は残りの2つの選択肢に絞られる。

これが今回このシミュレーションを公表した意味であろう。

シミュレーションの落とし穴

まず、このシミュレーションが一つ大事なことを見落としていることを踏まえなければならない。

それは・・・・・・

台湾は中国にとっての核心的利益であり、中国の国家の命運をかけてでも奪取しなければならない土地であるということ。

これに対してアメリカは、台湾を守れればベストだが、万が一台湾が中国に取られたとしてもアメリカ本土に影響なければそれでいいというスタンスであるということ。

たとえば、自分の子が誘拐されたとすれば、自分の命を賭けてでも子を取り返しに行くであろう。

しかしそれが他人の子なら、自分の命を賭けてまで取り返しに行くことはないだろう。

これが中国とアメリカのスタンスである。

つまり、結局のところ「まずは台湾と日本で何とかしろ!」「何かあれば手伝ってやる」という認識なのである。

いつ台湾侵攻が起きるのか?

何年何月何日に起きるのか?

それはわからない。

だが、戦争が起こる2つの条件が揃った時であるということは言い切れる。

その2つの条件とは・・・・・・

「意志」と「条件」である。

このうちの「意志」は明確である。

もう一つの「条件」とは・・・・・・

わかりやすく言い換えるなら、「勝てる目途が立った時」といえる。

ルールのあるボクシングの試合なら、「やってみなければわからない」だろう。

ボクシングなら一度負けても次がある。

だが戦争ならば一度でも負ければ国家滅亡が待っている。

では絶対に負けない試合をするためには何をすればいいか?

ボクシングならばひたすらトレーニングを重ね、そして相手の研究をするしかない。

しかしボクシングという名の「戦争」であれば、まず相手のセコンドにスパイを潜入させて作戦の情報を盗むだろう。

さらには相手に毒を盛り、怪我をさせる。

そうして完全に有利な状態になってからリング上で相手と対峙するだろう。

すでに日本には大量の中国人スパイが潜入している。

アメリカにも台湾にも同じようにスパイが潜入している。

中国はアメリカの航空機や戦艦の位置を把握するGPS衛星を破壊できる能力も備わっている。

それに加えてアメリカ国内の分断が広がっている。

中国にとって機が熟しつつある。

台湾有事は近い。

update 2023.9.25
since 2023.9.25

しんぐうネットTOP